手力整体塾@からだ応援団のパンチ伊藤です。
日本の痛み医療は30~50年遅れていると言われていますが、【痛みの生理学】自体はこの20年ほどで随分進んで、「何故痛むのか」ほぼ解明されました。
そんな【痛みの生理】とそもそもの【痛みの本質】についてまとめました。
痛みの生理
走ることで生まれた電気を充電してモーターで走れるハイブリッドカーのように、私達の身体も自家発電された電流で機能していて、『痛み』という感覚ももれなく電気信号によって生じます。
通常、細胞の内側と外側はそれぞれカリウムイオンとナトリウムイオンが一定に保たれていますが、何らかの刺激で外側のナトリウムイオンが細胞内に流れ込む【脱分極】が起こると、ここに電流が発生します。
神経終末にある侵害受容器が電流を拾って脳へ電気信号が送られ『痛み』として認識されているというのが、現状明らかになっている痛みの生理学です。
(つまり『神経が痛い』ということはありません)
侵害受容性疼痛
上に挙げた基本的な『痛みの生理』で生じている痛みのこと。2種類あります。
外因性の痛み
刺した、切った、打ったなどの刺激により脱分極が生じた痛み。通常、長く続くことはありません。
内因性の痛み
炎症や筋の酸欠から生じる化学物質(ブラジキニンなど。痛み物質とも言う)により脱分極を生じる痛み。
外因性の侵害受容性疼痛は基本的に放っておいても消える痛みで私達の対象外ですが、血行を抑制する生理が働いて筋の酸欠を招き、内因性の痛みに発展する場合があります。安静は程々に。
神経障害性疼痛(神経因性疼痛)
神経そのものの機能異常による病的な痛み。整体では取れない痛みです。代表的なのは帯状疱疹後神経痛。
テレビCMで恐怖を煽るようなものを目にしますが、帯状疱疹も経験していないのに神経が障害を受けることはほとんどありません。ご心配なく。
切断したはずの腕や脚を痛いと感じる幻肢痛も、神経障害性疼痛にカテゴライズされる場合があるようです。
心因性疼痛
身体的な要因が見当たらず、心理的ストレスや鬱などの状態により痛みを感じているもの。強く激しい痛みを脳が記憶して「可塑性」を生じる場合や、中枢が過敏になる「中枢感作」を生じる場合もあり、身体的原因が見当たらなくても痛みが発生することはしばしばあります。幻肢痛はこちらの要素もあるわけです。
可塑性や中枢感作を生じている場合は、痛みそのものが治療対象になり整体の対象外ですが、そこまででないものは案外いけます。
心的ストレスは最強の血行不良誘発要因でもあり、内因性の侵害受容性疼痛を誘発している場合が多いのです。
痛みは交感神経を優位にして血管を収縮させます。つまり全ての痛みが最終的に内因性の侵害受容性疼痛へ発展するわけです。
(痛みの生理は滋賀医科大学のサイトが凄く良くまとめてくれます。もっと詳しくお勉強したい方はどうぞ!)
痛みの本質
痛みとは生きていくために欠かすことの出来ないとても大切な感覚です。
とても嫌なものですけれど、この感覚がなかったら簡単に死んでしまうのでとても有り難いもの。危険を知らせてくれる心身からのサイン。それが痛みの本質です。
危険要因は人によって様々だしレベルも人それぞれです。だから『木を見て森を見ず』では上手くいかない。「どんな痛みか」には「どんな人か」が必ずついて回る。痛みばかりを見ず、森を見るように人を見ないと、痛みを解消することはできないのであります。
感覚のひとつ
痛みそのものが病気な場合以外、『気持ち良い、眩しい、臭い、美味しい、うるさい、温かい・・・・』などと同様、痛みも【感覚】のひとつです。つまり他の感覚と同じように、外部からの入力があるということです。
感覚は入力がなくなれば消えるものなのに、原因を身体の中に探してばかりいたから、痛みの研究はナメクジのように進まなかった。そもそも論が抜けていたから、腰痛はヘルニアで膝痛は関節症で手の痺れ(痛み)は頚椎症で・・・・などなど、医療機器メーカーと製薬会社のために細分化され、ややこしくなり、痛み難民が溢れることになったのです。
侵害受容性にしろ心因性にしろ、その場その環境から逃げろ!入力を断ち切れ!というサインです。発生要因を外側に探してみましょう。
更にそもそもを掘り下げて『健康とは何か』を模索する。健康とはどのような状態なのかわからないのに、病気の研究をしてしまったのが現代医療でもあります。
病人ばかり見ていたら健康の秘訣がわかるはずありません。
まるで傘もささず雨の中タオルで体を拭きながら歩いているようなもの。
整体は傘になる。濡れたら拭くのではなく濡れない方法を個別に選択して提案する。そんな風になりたいのです。
大変ありがたいことに、手力整体塾は今月も新入生を迎え、スタート講座を行いました。
他人の身体に触るというとてもデリケートなことを生業としてゆくので、知らなかったでは済まされないことを先輩が後輩へ繋ぐ。整体にまつわる法的なこと、安全対策のこと。そもそも整体とは何か、痛みとは何かe.t.c.。整体の理論や手技の勉強をはじめる前に知るべきことを最初に、そして繰り返して細胞レベルに行き渡らせるための4時間です。
自分にしか出来ない整体院のコンセプトが見えた時、痛みが対象になるとは限りませんけれど、まずは評価がわかりやすい痛みの取り方を勉強していくので、『そもそも痛みとは何であるか』を理解しておくことはとても大切だと思います。
奥で施術しているのが新入生。流石のセラピスト歴5年、良い姿勢です。塾生レポも早速書いてくれました。先輩諸氏、焦れ(笑)。