肩甲骨をくっきり出したい!なら【立甲】の前にすることがあります

手力整体塾@からだ応援団を主宰しています、パンチ伊藤です。
肩甲骨はがしとか立甲とかいうワードが巷に出てきてからというもの、肩甲骨への注目が高まってます。
今回のエントリでは肩甲骨を自在に操るために必要なことをまとめました。あなたの埋まった肩甲骨もちゃんと浮き出ますように。

立甲とはなにか

なんだか古くからある言葉のように見えますけれど、意外とここ数年で出てきてスポーツ界を少し賑やかにした言葉のようです。(言い出しっぺは謎)

立甲とは肩甲骨を立てること。昔々テレビジョッキーの奇人変人に良く出てきた『肩甲骨で卵挟んで割る』とかできるほど、肩甲骨を肋骨から浮き上がらせる事を立甲というようです。ちょっと聞き慣れないけどキャッチーな言葉を創るのはブームに不可欠なことみたいですねぇ。

残念なことに、解剖学上肩甲骨に立甲という動作はありませんしそれに作用する筋肉というのも見当たりません。つまり現状の解剖学では立甲するためにどの筋肉を鍛えたり緩めたりすれば良いのか正確にはわかりません。

でも実際に動きは存在するわけですから、埋もれた肩甲骨を浮き立たせる準備として、肩甲骨の動きに関わる筋肉をまるっと全部書き出してみる必要があります。

肩甲骨に着く筋肉を知る

解剖学上で肩甲骨の動きに関与する筋は、僧帽筋、肩甲挙筋、前鋸筋、菱形筋、小胸筋、いう事になっていますが・・・・(肩甲骨の動作と作用する筋肉の一覧はこちら

仕事がお役所的というかなんというか【起始・停止】なんてものに拘ってるのが解剖学です。肩甲骨に付着している筋はそこが起始だろうが停止だろうが肩甲骨動かすでしょ、当たり前に考えたら。

起始・停止別け隔てなく肩甲骨に付着する筋肉をまるっと全部書き出すと・・・

肩甲挙筋、大・小菱形筋、僧帽筋、小胸筋、前鋸筋、大円筋(広背筋)、小円筋、棘下筋、棘上筋、肩甲舌骨筋、肩甲下筋、烏口腕筋、上腕二頭筋、三角筋、上腕三頭筋

肩甲骨に付着して肩甲骨の動きに関与する筋肉一覧

これだけ多くの筋肉が肩甲骨に直接着いていて、すなわち肩甲骨の動きに関わっています。筋肉は決して一方通行で収縮するわけじゃありませんからね。

さらに、人間の肩甲骨は肩鎖関節で鎖骨と繋がっているので、鎖骨(胸鎖関節)を動かさずに肩甲骨だけ動かすのは至難の業です。よって鎖骨に着く筋もついでに挙げると

鎖骨下筋、胸鎖乳突筋、大胸筋(僧帽筋、三角筋は肩甲骨と共通)

鎖骨について間接的に肩甲骨を動かす筋肉

これらの筋肉も間接的に肩甲骨の動作に関わってきます。

肋骨に張り付いて埋もれた肩甲骨を立たせる準備

ワタクシ腐っても整体師なので、立甲出来る人よりも出来ない人、肩甲骨が埋もれたようになってどこにあるのかわからない人の方が沢山お目にかかっております。肋骨と肩甲骨の隙間にまったく指が入らない人もザラです。

で、そんな人はどこがどうなっているかというと、概ね肩甲骨は外へ開いて(外転)います。つまり後ろ側&内側にある筋肉はピンピンに引き伸ばされて固くなっているのです。
反対に短く凝り固まっているのは前側&外側にある筋肉。腕の方へ引っ張られた肩甲骨は結果肋骨にピッタリと張り付いて浮き出ないのであります。

埋もれた肩甲骨を浮き立たせて立甲するためには、肩甲骨内縁と背骨の間が柔らかくなければいけないのですが、単純にソコをほぐしてしまってはいけないことにお気付きいただけますでしょうか。

まずはとにかく肩甲骨を元の位置へ戻すべく、前&外から腕にある筋肉のコリを取り除き、且つ長さを元に戻すべくストレッチが必要です。

立甲の前に必要なストレッチ

この手のストレッチを容易に出来る人の肩甲骨は張り付いてないのでこの辺読み飛ばしてください。

次に、ピンピンに引き伸ばされていたところを自分で縮めてみる。整体師・セラピストは、緩めることは得意でも伸びている筋肉を縮めることは基本できません。短縮して引っ張っていた筋が緩めば、それだけでも引っ張られていた方にアソビが出ますが、縮まり方を忘れている場合もあるので自分で頑張って縮めてみましょう。

ここまできたら、胸鎖関節を中心に肩の先端をグルグル回す(腕じゃないよ)。前後上下に大きく動かせるようになった頃には肩甲骨の存在が浮かび上がってくるはずです。

肩甲骨を立てる筋肉はどれか

さてココからが問題です。解剖学の参考書に、立甲する筋、すなわち肩甲骨を立てるとか肩甲骨を出すとか肋骨から引き離すとかいった作用を持った筋肉は載っていませんので、筋肉の付着部を見ながら想像をするしか手立てがありません。

肩甲骨を外側へ引き出す作用を持った前鋸筋を立甲の筋としている方を見かけますが、前鋸筋や肩甲下筋といった肩甲下窩(肋骨側)の内縁から始まる筋が収縮したら、内縁は肋骨に引きつけられるはずです。前鋸筋が麻痺した際に起こるとされている翼状肩甲骨と立甲はとても似ているわけで、前鋸筋はむしろオフるのが正解でしょう。

内縁を浮き上がらせる筋肉はどこにあるのか。
筋肉の起始停止と骨格標本を重ね合わせ自分の身体も駆使してワタクシが導き出したのがこちら

立甲の際に収縮させたい筋肉

三角筋後面、小胸筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋、上腕三頭筋長頭。外転しつつ内縁を浮かせられそうな筋はこの辺りだと思うのですがどうでしょう。

胸鎖関節を支点に、鎖骨を介した肩甲骨の外転という通常の動きにプラスして、このあたりの筋肉が頑張って鎖骨・肩甲骨間の肩鎖関節をかなり動かさないと立甲はできません。肩鎖関節単体の動作に関与する筋肉なんてどこ探しても見当たらないので、この辺の筋肉に望みを掛けるしかないのであります。

何はともあれ、肩甲骨を押さえつける筋肉がしっかり緩んいることが先決です。

四足動物との違い

人と犬の骨格

フォアフット走法とかつま先走りとか呼ばれる走り方も然りですけれど、スポーツ界はどうにも四足動物に憧れすぎているフシがあると思います。四足で走るために永い年月をかけて進化した彼らの骨格と二足直立を選んだ私達の骨格は根本的に違う。カカトが接地しているのは二足直立のアイデンティティだし、鎖骨を残し肩甲骨を寝かせたから腕で抱きかかえたり手でご飯を食べたり出来るのが私達です。

四足動物の肩甲骨は肋骨の横についているからそもそも立ってるし、鎖骨が無く上腕骨としか関節を形成しないから可動域が凄まじい。四足動物の肩甲骨とワタクシ達の肩甲骨では存在意義が随分違います。前足と腕、前肢と上肢を一様に語るのはあまりにも無理があるのです。

甲腕一致ゼロポジション(PNF運動ライン)

立甲は甲腕一致のために不可欠という記載をアチコチに見かけます。肩甲棘と上腕骨のラインが重なるポジション(甲腕一致)が動作の際に優れたパフォーマンスを発揮するという理屈は、言葉は違えどPNFの運動ラインと一緒。沢山の筋肉を動員できる動作のラインなので重要性は理解できます。

んが、甲腕一致獲得のために立甲が必要だというのは話が噛み合ってないるように思えます。大体、肩甲骨の立っている犬が甲腕一致ゼロポジションになることは滅多にありません。犬の肩関節では可動いっぱいの位置ですからね。例えばなしからして矛盾しているのであります。

立甲にチャレンジしている人達の画像を見れば皆一様に同じ格好をしていることに気づきます。四つん這いです。そんなに四足動物になりたいですかね?(立甲で画像検索して見ください。結構衝撃です)

大事なのは運動ライン

PNF運動ライン

ちょっと新しい言葉や概念が出てくるとすぐに『○○最高!』『○○にデメリットなし!』というバイアス掛かった人が次々現れます。そんな風潮が大っきらいなオジサンが立甲したい人に向けてブログを書いたら、『しなくても良いんじゃね?』ってエントリになってしまいました。すみません。

四足動物になりたい人はともかく、二足直立の人間として健康を望むなら、肩甲骨の可動域は通常レベルで運動ラインが確保できれば良いのです。肩甲骨が肋骨に張り付いていては運動ラインから離れた動きになって故障の確率が上がるので、先に上げたストレッチを繰り返して欲しいところですが、通常レベル以上の可動域をつける必要はありません。

私達の肩甲骨は、上肢をパワフルに使う際に強力な梃子を発揮すべく滑車のように動いてくれたり、腕の重さを支えるためにしっかり肋骨に張り付いてホールドするアンカーの役割をはたしてくれたりと変幻自在。『剥がれれば良い』という単純なものではないのです。

肩甲骨辺りからゴリゴリ音がするのは?

埋もれるほど張り付いている人は音が出るほど動きもしないと思いますが、割と良く動く肩甲骨のあたりからゴリゴリ音がするという相談を良く受けます。っていうか、ワタクシの肩甲骨あたりからも結構な音がします。

音に関しては正直取れませんし、気にしないでくださいと伝えてます。

骨折したあとの骨にコブのような膨らみが出来るのは皆さんご存知だと思いますが、筋肉も修復の段階でコブのようになる場合があるようです。それが擦れてゴリゴリ鳴る。肩甲骨と肋骨の間にある肩甲下筋あたりで良く起こるようですが、機能には影響ないので気にしなくていいです。

まとめ

開脚にしろイナバウア(懐かしい!)にしろ、通常の可動域を超えた動作ができたところで通常の生活に大したメリットはありません。『出来た!』という達成感とか自己満足は手に入るでしょうが、趣味や仕事でその動作を必要としている人以外には使い道がありません。

どんなに凄い竿ススメられたって釣りしない人には理解出来ないし必要もないでしょ?なのに『なんだか凄い!』と思わせて買わしちゃうのが商売人。自分に必要かどうかはユーザーがちゃんと考えたほうが良いです。

多くの人に必要なのは、立甲よりも通常の関節可動域です。生活スタイルは多様化してますから、場合によっては通常の可動域に及ばないほうが良い人だっています。動かそうと思えば動くし、固定しようと思えば固定もできる。そんな自由自在な肩甲骨が良いのです。

立甲と固定、究極の選択でどちらか選べと言われた、現代社会なら間違いなく固定です。
埋まって張り付いた肩甲骨をくっきりと浮き出させたいなら、生活スタイルを変えるのが正解ですよ。

カヤックで遊べば肩甲骨ははがれます
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肩甲骨をくっきり出したい!なら【立甲】の前にすることがあります” に対して5件のコメントがあります。

  1. たか より:

    初めまして!

    四つん這いで立甲をしている時は肩甲骨が浮き出てきますが
    普通に立っている時にいわゆる甲腕一致が出来ません
    具体的に言うと肩甲骨が剥がれないと言うか出てこないと言うか

    ブログ内にあった内縁を浮き上がらせる筋肉 「三角筋後面、小胸筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋」
    これらをしっかり使える様にすれば甲腕一致が出来るでしょうか
    又、どの様な練習をすればいいでしょうか?

    1. パンチ伊藤 より:

      はじめまして。
      甲腕一致は読んで字のごとく肩甲骨の棘突起と上腕の角度が揃う運動ラインの事で立甲とは別です。立っている際に立甲できなくても、要は肩甲骨が自由に動ければそれで良いと思いますが、目的が立甲なら(何のためかわかりませんが)四つん這いで出来ている状態を立位で再現すれば良いわけですからまずは四つん這いで立甲のON・OFFを繰り返してどの筋を使うのかOFFるのか探ってみてはいかがでしょうか。

  2. たか より:

    分かりやすい御返答ありがとうございます!
    参考になりました。

  3. すっとこどっこいラグビー親父 より:

    初めまして。
    ブログを拝読させて頂きました。
    自分は古武術を習っておりますが、先生も同じことを言っています。それは「必要以上の可動領域はむしろ弊害で、大切なのは可動領域がスムーズに動く事」です。ご指摘のとおり〇〇する時パフォーマンスが上がる、とか〇〇メソッド、とか日本人は好きですから、立甲も乗せやすかったのではないでしょうか?

    ちなみに立甲はゆる体操の高岡先生が提唱されたのが最初ではないかと思います。

    今後も楽しみに拝読させて頂きたく、益々のご活躍を期待しております。

    1. パンチ伊藤 より:

      コメント&賛同をありがとうございます。励みになります!

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