人と犬の骨格の違いを考えると整体はより面白くなります

『何故身体がそうなっているのか?』を考える時、人間の身体だけ見て考えていてはとても勿体ないのであります!

人間と犬の骨格

背骨(脊椎)の違い

人間も犬も、首が長いキリンさんも、首なんて見当たらないクジラさんも・・・哺乳類の頚椎はほぼ7つです。クジラの頚椎はほとんど癒着してしまってますが、種類によっては7つの面影がちゃんと残ってます。

クジラの頚椎


(マナティー、ジュゴン、アリクイ、ナマケモノなど、7つじゃない哺乳類も居るには居ます)

あくまでもスタンダードの話しですが人間の胸椎は12、腰椎は5。犬の胸椎は13、腰椎は7。肋骨がくっついて可動が制限される胸椎に比べ、動きやすい腰椎が2つも多い。

他の関節と違い椎間板を介している関節の可動は小さいので、良く動かすためには沢山連なっていた方が都合良いわけで、人間より犬の腰椎は結構動く事が骨格からわかります。

ちなみに馬の胸椎は18、腰椎は5。腰椎は意外の少なさです。
草だけで数百キロの身体を維持するため胃も大きく腸も長い草食動物は、臓器を守る肋骨が多いわけですね。胸椎18ってことになっていますけど、肋骨突起(腰椎に見られる横突起みたいなもの)が長い腰椎なのかも?

犬の腰椎の多さ、馬の腰椎の少なさは、走り方の違いにも現れています。YouTubeで探してご覧あそばせ。

横から見てS字を書くような生理的弯曲というものは直立二足の人間だけにあります。縦に重なる椎骨のどこかでショックを逃がさないと、いちいち脳ミソが揺れてしまうので生じた生理的な湾曲です。

生理的湾曲

椎骨ひとつひとつを見ると、人間と犬とでは随分と形が違います。特に環椎の違いは感動的です!

鎖骨の有無

人間と違い、四足歩行の哺乳類の多くには鎖骨がありません。鎖骨痕という突起はみられますが、肩甲骨と関節は形成されていません(肩鎖関節)。

胸骨ー鎖骨ー肩甲骨
人の胸骨ー鎖骨ー肩甲骨

犬をはじめ四足歩行の動物たちの肩甲骨は、脊椎・胸骨・肋骨と筋肉で繋がっているだけ。膝蓋骨(膝のお皿)の様に漂っている、腱の中に出来た『浮遊骨』と言えるのです。

踵(カカト)

二足直立できる動物たち(人間含む)が踵を接地して蹠行(しょこう)するのに対して、犬や猫、ライオン・トラなど、肉食・雑食動物の多くはカカトを浮かせたつま先立ち状態で趾行(しこう)しています。あのプクプクして気持ちの良い肉球は足の裏じゃなく指の腹なのです。

肉食よりももっと早く・長く走らななきゃならない草食動物は更に指の先っぽでの蹄行(ひこう)しています。

近頃は人間界でも、踵を着けずにつま先で走るのがもてはやされているようです。ランナーが趾行や蹄行に憧れるのはわかりますけれど如何なもんでしょうね。踵が接地しているのは人間のアイデンティティだと思うけれど。

股関節、肩関節の可動域

人も犬も、股関節と肩関節は臼(球)関節。臼の様な受け皿と球の様な骨頭で形成されています。

そんな構造からワタクシ達の肩関節と股関節が四方八方に良く動くのに対して、走ることに特化した四足動物達の肩と股関節はほぼ前後(屈曲・伸展)にしか動かせません。関節の形状は同じですが、開いたり閉じたり(外転・内転)、捻ったり(内旋・外旋)の筋肉が発達していないのです。

前腕の動き(回内・回外)

蹠行グループのワタクシ達は、手のひらを下に向け(回内して)食べ物を掴み、手のひらを上に向けて(回外して)口に運ぶことが出来ますが、押さえつけて口を運ぶ四足の彼等は、手のひらを上に向けることが出来ません。

橈尺関節の動き(回内・回外)

この動きは何かに抱きついたり木に登ったりする際にも発揮されます。木に登れる猫は手で御飯食べられますよね。猫の鎖骨痕は犬より長いのもこの動きに一役買ってます。

パンチ伊藤の解釈

骨格や機能の違いは、それぞれ独立したものではなく全て連関しています。

二足直立は、大きく重くなりすぎた頭を垂線上に重ねたのが発端なのかもしれませんが、進化論が揺らいでいる今、元々この形だった可能性もあるわけです。

重力に対して無理なく無駄なく『骨で立てる』人間の構造から、それぞれ特化した形へ進化していったと思うほうが、天邪鬼なワタクシとしてはシックリします。
実際、最古の哺乳類とされているアデロバシレウスはほとんどネズミ。カカトを接地して二足で立って、鎖骨のある上肢を器用に使って手で食べ物を掴んで口へ運べたと思われます。人間の構造のほうが最古に近いわけです。

狩りや逃避の為に走ることを選んだ四足の動物達は、体中全ての筋肉を『走り』に動員できるよう、脊椎も多く、踵は地面から離れ、股関節、肩関節、前腕の無駄な動きを犠牲にした。勢い良く飛んだり跳ねたりしても、鎖骨がないので、前肢(手)から着地していれば骨や関節といった硬い組織を痛めない。(鎖骨があったらしょっちゅう骨折します)

犬種による多少の違いはあれど、飛んだり跳ねたり走ったりに特価した彼等の身体は、室内飼い全盛の今でも走るための構造を維持しています。ボク等の身体がデスクワークに特化した構造変化を未だにしないのと同様、犬がマンションで暮らすための進化は残念ながら当分起きそうにありません。

だから何らかのケアが必要なのであります。

整体師・セラピストなら、是非人間以外の身体も沢山見てください。色々な動物を見てそれぞれの『何故?』に気が付いたら、ボディーワークがより一層面白なること請け合いです。

こんな本も楽しくてしょうがなくなりますww。


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