スクワットを分析すると機能解剖が使える知恵になる

手力整体塾@からだ応援団のパンチ伊藤です。
機能解剖と物理を紐づけて理解するのにダメスクワットの考察が一役買うというおはなしです。

ダメスクワットは何故ダメなのか

スクワットのやり方を解説する記事や動画で「膝がつま先よりも前に出ないように」という注意書きを良く見かけると思いますが、『何故ダメなのか』を解説してくれているものはほとんど見かけません。

「膝を痛めやすいから」は理由にあらず。『何故、膝を痛めやすいのか』までを論理的に解説できると機能解剖が使える知恵になります。

  • 人の身体にとって何が重要なのか
  • 重力とどうやって関わるのが良いのか

良いスクワットの何が良くて、ダメなスクワットは何がダメなのか。そもそも良いとかダメとか極論で良いのか?スクワットをよくよく分析すると整体師・療法士としてランクアップすること間違いなしです!

スクワット以外で膝を痛めやすいシチュエーション

駄目スクワットは「膝を痛めやすいからダメ」と言われます。駄目スクワット以外で膝を痛めやすいシチュエーションをピックアップして共通点に気づいてみましょう。

上りより下り

1番代表的なのが多分コレ→「登山は登りよりも下りが膝にくる」。
下りよりも100倍疲れる登りのほうが膝には優しい。汗もかかないし息も上がらないのに圧倒的に膝に来るのが下りです。
まずはイラストを見て双方の違いを洗いざらい書き出してみましょう。

山(坂)の上り
山(坂)の下り

曲げた膝を伸ばしていく際に痛みが出る登りに対して(脚を持ち上げた際に膝の内側に痛みが生じる事もありますが)、伸びている膝が曲がっていく際に痛みが出るのが下り。
つまり、膝の伸筋群が短縮性収縮して登り、伸張性収縮して下るので、筋肉への負荷だけを見ても下りのほうが負担が大きいわけですが、それ以上に膝を痛める要素が下りにはあります。

痛みが生じる膝ばかりに注目せずちょっと視野を広げて見るのがコツ。画像診断に頼る医療とは別の診方をするのが療法家の使命ですからね。

実際に山を歩いて登と下りで何がどう違うのか体感もしておきたいです。膝がカクカクと笑い出すまで山道を歩いておくのは膝痛セミナーに出るよりもずっと大切だと思います。

当然階段でも同じことが起こりますが、膝が笑うほどの階段はやっぱり山に行かないと無いかもしれませんね。

階段の上り
階段の降り

自転車より歩行

「歩くのはしんどいけど自転車は平気」そんなお年寄りは結構いらっしゃいます。

体重を支える必要がないのはもちろん、『上りの形』でペダルを漕ぐのが自転車。
年令を重ねても乗れることを踏まえたら、エアロバイクをタラタラ漕ぐ行為に果たして意味があるのか疑問です。しっかり負荷をかけてガシガシ漕ぐなら別ですけれど。

ジャンプや急ブレーキ

伸張性収縮+重力による加速や勢いまで加算されるのがジャンプや急ブレーキ。この手の動作で生じる急性痛は怪我であり損傷を伴う場合が多いので整体師・療法家の対象ではなくなることが多いと思います。特にバスケットシューズなどで「キュッ」と止まると十字靭帯損傷の危険はかなり高い。

んが、ジャンプする度に痛くなるとか何度もぶり返すとかだったら我々の対象になりえます。本格的に損傷する前に身体の使い方を見直したいところです。

後ろ向きで下るお年寄り

最後に、膝に不安があるお年寄りが行いやすい動作。
人の多い大きな駅の階段で数時間観察していると、階段を後ろ向きで降りてくるお年寄りをきっと見ることができます。

後ろ向きで階段を降りる

後ろ向きでも下りの場合大腿四頭筋に生じる『伸張性収縮』は避けられませんが、脚の形は上りとほとんど同じというところがキモですね。

スクワット以外で膝を痛めやすい動作の共通点

ココまで見てきて、膝を痛めやすい動作の共通点に気が付きましたでしょうか。

その1:股関節の伸筋群が活かせるかどうか

身体を上下に動かすのは『抗重力筋』とも呼ばれる伸筋群の役割。短縮性収縮・伸張性収縮と収縮の仕方に違いはあれど、使うべき筋肉は上りでも下りでも基本同じです。

んが、上りの姿勢にくらべて股関節の伸筋群を使いにくくなるのが下りの姿勢です。


筋肉は【収縮】という縮まる力しか発揮しないので一旦伸ばされてからの方がパワフルに働けます。関節の作りや筋肉が付着する部位によってテコの効率に変化が生じるので、一概に伸ばされるほどパワフルになるわけではありませんが、概ね長い状態からの方がパワフルなのが筋肉。
上りの際は股関節の伸筋群(主に殿筋群)がパワフルに使えるので結果的に膝の伸筋群は負担が減る。股関節屈曲状態でペダルを漕ぐ自転車も同様ですね。

その2:カカト荷重かつま先荷重か

踵で地面を押しやすい上りに対して、足首の十分な背屈可動域がないと早々に踵が浮いてしまうのが下りです。

つま先で地面を押す=底屈の筋肉が収縮する。
底屈の筋肉の内、ふくらはぎのアウターにあたる腓腹筋は膝の屈曲にも作用します。膝の伸筋=大腿四頭筋が収縮する際に膝の屈筋が収縮したら抵抗になるので芳しくありません。

その1とその2を避けられる下り方、踵で地面を押しつつ殿筋も動員して下れるのが後ろ向きなのであります。

膝を痛めやすい動作とスクワット2種を比較

左がいわゆるダメスクワット。右が良いスクワット。
左は下りの形に近く、右は上りや自転車、後ろ向きでの階段下りに近いことが見て取れると思います。

つまりダメスクワットは

  • 股関節の伸筋群が使えない
  • つま先で地面を押す

から膝を痛めやすく推奨されないわけです。
コレを逆に言うと膝痛を訴えるクライエントさんに必要なことが浮かび上がります。

  • 股関節の屈曲をスムーズにして、股関節伸筋群を使いやすくする
  • 足首の背屈をスムーズにして、踵で地面を押せるようにする

そのために必要なことは多岐にわたりますが、簡単に言うとそういうことです。

想像じゃなく分析

他にも『テコ』の作用による負荷の差がありますが、長くなるので今回はココまで。

民主主義には必ず反対意見が存在するので「スクワットの際、膝がつま先より前に出ても構わない」という意見もあります。んが、「膝に痛みが生じようとも大腿四頭筋をとにかく鍛えたい」という筋肉バカさん以外は止めておいたほうが良い。大腿四頭筋だけを狙うならレッグエクステンションとか他の手法をとりましょう。スクワットの目的を見失わないように↓

スクワットの正しいやり方は何故正しいか

スクワットの正しいやり方として『膝小僧が爪先より前に出ないように』とは良く言われますが“何故”そうなのか知っている人は少ないと思います。答えはココにあります!

何故ダメなのかアレコレと想像・妄想をすのではなく、根拠ある機能解剖と物理を繋いで解説できるようになっておきましょう。スクワットを理解することは機能解剖と身体の物理を理解する近道。読んだり聞いたりだけでは理解できないので自ら出力しましょう。「理解してないから出力できない」んじゃなく「出力しないから理解できない」のです。

関節にしろ筋肉にしろ単体で働くことはまずありません。「木を見て森を見ず」にならないように「木も見る森も見る、更に川も海も見る」。全部繋がっている身体をひとつとして捉える視野が肝心ですね。

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