手力整体塾@からだ応援団のパンチ伊藤です。
施術の練習をしていて骨と勘違いされることが多い【腸脛靭帯】。その正体と付き合い方のお話です。
腸脛靭帯は揉んでも緩まない
「コレって骨ですか?」
手技の練習をしている最中にそう尋ねられるところダントツの第一位、腸脛靭帯。
私達の身体は、骨とその周辺の太い血管や神経を守るように筋筋膜と脂肪が壁として付いているので、骨を触れる部位はあまり多くありません。大腿みたいに筋肉が豊富なところなら尚更、骨に触れるのは膝近くと大転子くらいです。
限りなく直に骨を触れるようなところは筋筋膜も脂肪も薄いので、触り方を間違えると打ち身のような痛みが残る場合もあって注意が必要ですが、骨のように固くなった筋筋膜や腱はガッツリ刺激してもまず大丈夫。放置されすぎて麻痺ってる場合も多々あります。
腸脛靭帯も骨のように固くなっている事が多いですが、ここはわりと痛がります。しかも直接刺激し続けても痛いばかりでちっとも緩みません。筋肉じゃないので当たり前ですけどね。
腸脛靭帯は靭帯じゃない?
名前からも分かる通り、腸脛靭帯は筋肉じゃないので揉んでも緩みませんが、おかしなことに靭帯でもありません。何故そうなったのか知りませんけれど、機能解剖はところどころ理不尽な事になってるのです。
大殿筋と中殿筋の一部と大腿筋膜張筋からなる白いところ(↑左イラスト参照)が腸脛靭帯。こんな表面に靭帯があるわけない。
関節がズレたり抜けたりしないように骨と骨とをしっかり結ぶのが靭帯の役割。だから靭帯はこういうところ↑にあります。
対して、腱は筋肉の両端にあります。各筋肉は筋肉のまま骨につくのではなく必ず腱になってから骨へ付着するのです。大殿筋と大腿筋膜張筋という二頭を持つひとつの長い腱。ヒラメ筋と腓腹筋からなるアキレス腱みたいなものが腸脛靭帯と思って間違いない。実際に組織をみても腱のような繊維なんだそうです。
知れば知るほど「名付け親出てこい」と言いたくなりますが、きっと英語の「Iliotibial Band」を訳しただけなので(Band=靭帯)、名付け親には英語で文句を言わなきゃならず出てこられても困りますね。
ま、ともかく、腸脛靭帯というよりは【腸脛腱】と言ったほうがしっくり来るのが腸脛靭帯なのであります。
機能解剖には他にも・・・・、関節軟骨も関節包もないのに関節名乗ってる仙腸関節とか、ありえない動作名がついてる外反母趾とか、起始停止など在り処を名乗るはずの筋肉が突如「縫工筋」とか(縫工筋は英語でもSartorius Muscleと人の名前が付いてます)、度々おかしなのが出てくるので面白おかしく注意深く学びましょう。
腸脛靭帯の役割
靭帯は骨と骨とをしっかりと結ぶロープ。ロープだから基本伸びも縮みもせず、一度伸びたら元へは戻れません。切ってしまったならお医者さんで繋いでもらえますけれど、伸びた靭帯はなぜか何もしてもらえません。
靭帯はロープですが腱は強力なゴムです。ぎゅっと伸ばすと元へ戻る力を発揮します。そんな腱の力を世界一活用しているのがこちら↓
着地の際に長くて太いアキレス腱をぎゅっと伸ばして、ゴム効果でピョンピョン跳ねているんだそうです。
アキレス腱同様のゴム効果を発揮する腸脛靭帯腱を世界一活かしているは我ら人間。
人間特有の骨盤が先か、無理やり二足で走ってたからそうなったのか、どっちが先かはわかりませんけれど、片足で着地した際に腸脛靭帯をギュンっと伸ばしてゴムパワーを引き出せるのは、人間だけの特権です。
ゴムパワーを発揮すると同時に必要以上な股関節の内転も抑制します。言い方を変えると、対側の骨盤が落ちないように抑えるのも、腸脛靭帯とそれの元になる外側の殿筋群&大腿筋膜張筋(股関節外転筋群)の大事な役割です。
この写真の人は、足を付く位置をもう少し内側(重心の下)にしないと、思いもよらない強力なモーメントで股関節の外転筋群を痛めそうな気がします。
腸脛靭帯と大概セットで話に出てくるランナー膝(腸脛靭帯炎)。
『膝の曲げ伸ばしを繰り返して腸脛靭帯が膝の外踝にこすれて炎症・・・』みたいな病理がまことしやかに流布されていますが、股関節の必要以上な内転を止めるだけでも大変なのに、支点と重心がズレた着地ではさらなるモーメントが加わって相当な負荷がかかります。膝の曲げ伸ばしなどなくても停止部が痛むのは想像に難くありませんけど、なぜお医者さんにはそういう視点が無いんでしょうかね。
膝の曲げ伸ばしがランナー膝の原因なら、自転車でもスクワットでも、中に浮いて膝曲げ伸ばししててもならなきゃおかしいでしょ?
腸脛靭帯のもうひとつの大事な役割が、股関節を押さえるというもの。
↑右のイラストを見るとわかるように、大腿骨の大転子を包むようにして腸脛靭帯がはじまっています。つまりこの部分で靭帯的役割を果たしているのです。「本当は腱だろー」とか言ってゴメン、腸脛靭帯。
ただし、やっぱり靭帯的な腱に違いはないので、外転筋群が固くコルとつられて腸脛靭帯も固くなって、大転子を強く押さえつけるようになります。結果股関節の動きがすこぶる悪くなる。ここの仕組みのおかげで広い可動域を得たのに、使い方が悪いと動きが狭くなるという【因果応報】です。かと言ってあんまりユルユルだと、股関節を押さえることが出来なくなるのでジッとしていることが苦痛になります。何事もバランスですなぁ。
腸脛靭帯のゆるめ方
先にも書いたように、腸脛靭帯自体はほぐしてもほぐれません。腱ですからね。アキレス腱そのものをいくら揉んでも柔らかくはならないのと同じです。
引っ張れば元へ戻ろうとする腱ですが、元の状態から収縮する力は持ち合わせていません。つまりガチガチに固くなっていてもそこ自体が凝り固まっているわけではなく、殿筋群&大腿筋膜張筋の外転筋群に引っ張られてピンピンに張っているわけ。つまり解すなら外転筋群ってことです。
筋反射や腱反射や相反抑制などなど、狙いの筋に好ましい反射を起こすべく色んな入力を試してみましょう。
硬いからって力任せにほぐしたりしちゃダメですよ!
知らないと損しかない機能解剖
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