たまにはちょっと真面目に筋肉のお勉強。今回は遅筋(赤筋)と速筋(白筋)のおはなしです。

私達の身体を支持する組織群、わかりやすくいうと内蔵やら中枢を除く運動器は、硬組織(骨・軟骨)と、軟部組織(軟組織)に分けられます。
解剖学上の軟部組織は

  • 皮膚(表皮・真皮)
  • 脂肪
  • 筋・筋膜
  • 靭帯
  • 末梢神経繊維
  • 血管

以上。はい、セルライトなぞ存在しませんので念のため。

これら軟部組織のうち能動的に動く(動かせる)のは筋肉と血管だけ。自律神経の作用によってのみ動く血管(太い動脈に限る)と違い、筋肉(骨格筋)のほとんどは自律神経・運動神経どちらでも動き、動かすことが出来ます。

対して他の軟部組織は受動的に“動かされる”ものです。

筋肉の両端で骨への付着部として肥厚している『腱』は強力なゴムのようなもの。引っ張られれば元へ戻ろうとしますが、それ自体に長さを変える能力はありません。

『靭帯』は関節で骨同士を繋ぐ強靭なロープ。伸びることも縮むこともなく、万が一伸びてしまったら元へ戻ることも出来ません。(とてもメジャーな腸脛靭帯。ココがなぜ“靭帯”を名乗るか解せません。腸脛腱が正しいように思います。語呂は悪いけどw)

皮膚や脂肪、末梢神経も当然それぞれの役割がありますが、能動的に動いて骨格の動きに作用することは出来ません。つまり其処へアプローチして姿勢や動作を変えようとするのはちゃんちゃらおかしいわけで、間接的に筋肉や末梢(意識・脳)へアプローチしているというのが実態なのです。
リンパというものは免疫系で運動器ではありませんので、リンパをどうこうして形や動きを整える(矯正する)というのもおかしな話です。

筋肉の分類

解剖テキストにも筋の分類をまとめていますが、今回は特に遅筋(赤筋)・速筋(白筋)についてもうちょっと深くエグッてみます。

軟部組織のうち能動的に動かせる骨格筋は400種以上で体重の50%ほどをを占めます。先日のエントリでも書いたように、元を正せば10μm~150μmと極細の筋線維の束。で、その繊維の中に、赤みが強いものと白いものがあります。

遅筋/赤筋=Ⅰ型筋線維

Ⅰ型筋繊維(遅筋・赤筋)は、ミオグロビン(別名:筋肉ヘモグロビン)が筋繊維中に沢山含まれ毛細血管も多いため赤色を呈す。ミオグロビンが蓄えている酸素を使って”有酸素”で代謝出来るため持久力に長けていますが、収縮する力は弱く、代謝の過程が多い為に瞬発的な収縮も出来ません。

速筋/白筋=Ⅱ型b筋繊維

Ⅱ型b筋繊維(速筋・白筋)はミオグロビンが少ないので白く見える。代謝過程の多い赤筋と違いグリコーゲンを使って"無酸素”で瞬発的かつ強力な力を発揮できる。とは言え無酸素なので持久力はありません。

中間筋繊維/ピンク筋=Ⅱ型a筋線維

Ⅱ型a筋繊維(中間筋繊維とも)はミオグロビンも毛細血管もそこそこ有り赤身を帯びつつも瞬発的な力を発揮できる、まさにⅠ型とⅡ型bの中間。だもんでピンク筋などとも呼ばれるようです。(ほんの10年くらい前にわかったことみたいです。人間にはあまり無いとされています。

赤筋・白筋と筋肉ごとに分かれているわけではなく、すべての筋肉にそれぞれが含まれていて、Ⅰ型(遅筋)が多い筋肉とかⅡ型(速筋)が多い筋肉と言う具合になっています。
どの筋にどの筋繊維が多いかはおのずと見当がつきますが、割合は遺伝的に人それぞれ決まっていてトレーニングなどで後天的に変えることは難しいようです。
*最近の研究では白筋の赤筋化は可能かもしれないと言われています。(反対は無理)

潮流のある場所で泳ぎ続けいる(有酸素運動している)天然ブリはピンク!

息を止めて運動することを"無酸素運動”だと勘違いしている人は結構居るのじゃないでしょうか。負荷とスピードを伴う動きで、酸素を使わない【速筋/白筋】を働かせることを無酸素運動と言うのが正解です。反対の“有酸素運動”もしっかり呼吸しながら運動することではなく、負荷の少ない持久的な動きで【遅筋/赤筋】が酸素を使いながら代謝することを有酸素運動と言います。

魚で一目瞭然、遅筋/赤筋・速筋/白筋

ここまでは調べれば誰でもかける只のブログ。ここからが手力整体塾パンチ伊藤の本領。遅筋/赤筋、速筋/白筋を1番分かりやすく理解できるのがお刺身です。

お刺身にみる赤筋・白筋

タイやヒラメなどいわゆる白身魚は、捕食や危険回避の時以外あまり泳がない居付きの魚。『血合い』もほとんどなく身の大半を真っ白な速筋繊維が占める無酸素運動の魚です。水深5mから水面まで一気にダッシュして餌を取る際の瞬発力はかなりのものですが、泳ぎ続けることは出来ません。

マグロやカツオといった赤身魚の代表は、どっからどう見ても赤筋繊維が豊富なのが一目瞭然。一見白身に見えるブリやアジ、イワシなど『青物』と呼ばれる魚も、血合いが豊富で回遊性も高く、有酸素運動で常に泳いでいる魚です。
25年ほど前にキハダマグロを釣ったことがありますが、全身赤身のアイツは全然バテてくれず困り果てました。

遅筋/赤筋の方が柔らかいのもお刺身だと良くわかりますね。マグロやカツオは厚く切るけれど、タイやヒラメは薄めに切る。白身(速筋)の最たるフグなんて歯ごたえが凄いので向こうが透けるくらいに薄く切るのが常です。
(但しこれ死んだ肉の話です。生きている時は赤身魚の方がパンと張った固い肉をしています。)

さてここで「鮭はどっち?」って思った方いますか?実はあれ白身/速筋です。オキアミなど甲殻類を食べる事で生じるカロチノイド色素で紅色になります。養殖で甲殻類系の餌を与えれば、大きさににかかわらず赤い身を作れるんだそうです。

魚からみる筋肉の話し

血合肉が最たる赤筋

全身赤みのマグロは尾びれ近くや骨の近くに更に赤黒い血合いがありますが、アジやブリなどの血合いは皮目に多くあります。タイやヒラメなど一部の白身魚も皮目に薄く血合肉がありますね。

地上では姿勢の維持・固定が必要なので骨の近く、インナーマッスルに遅筋線維が多く含まれるのですが、水の中では姿勢ではなくポジションを維持するために尾びれや胸鰭を軽く動かし続けて、低負荷高回数の有酸素運動をしていないと流されてしまうので、最もたる赤筋の血合いが尾の近くや骨から離れた場所にあるのです。
マグロは泳ぎ続けていないと死んじゃう止まれない魚。だから血合いが背骨~尾びれの近くにあるわけ。

インナーマッスル(深層筋)とアウターマッスル(浅層筋)ギャップが開き過ぎて起きること

手力整体塾に入塾すると早々に、アレコレとホームワークが出題されます。 「勉強とは教わることではなく気付くことである」という大義名分の元、ある意味手抜きでもありま…

【遅筋/赤筋】がアウターに多くあるというのは人間からみるとちょっと不思議。まぁ、アジなんてゼイゴ(いわば皮より外側の骨)があったり皮のすぐ下に骨のある魚もいるので、生き物というのはホント面白いものです。

アジは体表に骨(ゼイゴ)がある

魚の血合いを見てもわかるように、骨格を動かす為の筋肉は骨から離れていたほうが効率良いので、人間の場合も身体を動かすための筋肉はアウターにあります。

重力のある地上だととにかく姿勢を維持し続けなければならないので、動かすためのアウターよりも骨の近くで動きを抑えるインナーマッスルに遅筋/赤筋繊維が豊富にあるのは解剖しなくても合点がいきます。

俗に言う『筋トレ』をおすすめしない理由がここにあるのです。皆さんが良くやる、大きな動きを伴う筋トレではアウターの筋にばかり刺激が入ってしまい、生きるために肝心な遅筋/赤筋を多く含むインナーマッスルのトレーニングになりません。

白筋の瞬発力で駆け抜ける短くて太い人生も悪くないでしょうけれど人生は案外長い。

筋肉ムキムキでは燃費が悪過ぎます。無酸素運動ゆえ循環が追いつかず、直ぐに疲労物質が湧いてきます。格闘技の世界でも、ムキムキマンは短期決戦でしか結果が出ません。ボブサップ、アリスターオーフレイム、ケビンランデルマン、見事にみんなスタミナが無かった。筋肉隆々とは違い一見プヨっとした感じのヒョードルは無尽蔵のスタミナだったではありませんか。

何を目的にどの筋肉を発達させるのか。ここを取り違えると努力は水の泡。どれだけ頑張っても結果はついてきません。何かの競技に参加しているならいざしらず、“健康”を目的とするなら遅筋をしっかり使えるようにしておきましょう。

遅筋/赤筋(インナーに多め)を使えず、速筋/白筋(アウターに多め)に姿勢維持という持久力を求めるから直ぐに背中や腰が痛くなるのです。骨の近くにある真っ赤な血合肉、Ⅰ型筋線維を有効に使うべく、姿勢維持のバランストレーニング(スタビライゼーション)を気まぐれにやっておきましょ。

スタビライゼーション

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